「安価な民間PCR検査」、「美容クリニック等のPCR検査」、「保険診療機関でのPCR検査」はいったい何が違うの?

昨今、1980円・2900円などの安価な民間PCR検査を行う検査機関が、都心を中心に広がり、話題になっています。また、少し前から、テレビCM等で、某美容クリニックが行っているPCR検査の案内を見られることも増えてきたかと思います。

社会経済活動の中で、新型コロナPCR検査のニーズは多く、検査環境が拡充されることは重要ですし、良いことだと考えられます。

一方、どのようなものにも、メリット・デメリットが存在するため、それぞれの特性などを理解して利用することが重要だと考えられます。

京都大学 ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授も民間PCR検査の精度には警鐘を鳴らしています。以下、記事中の宮沢孝幸准教授のコメントを引用させていただきます。

「PCR検査は偽陽性と偽陰性を大前提として考える必要があります。人間のやることに完璧や完全はありません。一定の精度が確保されていると言われる行政検査でさえ偽陽性、偽陰性は起こりうるリスクです。  自費検査を行う医療機関や施設に国が定期的に立ち入り検査を行っていれば話は別ですが、検査態勢や精度などの実態が“ブラックボックス化”しているのは事実です。自費検査に正確性を求めるのが、そもそも無理な話なのです」

格安の「自費PCR検査」って、どれくらい有効なのか? ウィルスの専門家に聞いたhttps://www.dailyshincho.jp/article/2021/01270855/

また、2021年2月23日の厚労省からのアナウンスでも、コロナ自費検査施設の精度に問題があることが指摘されています。

2021年3月26日の消費者庁からのアナウンスでも、市販されている検査キットの質には問題があることが指摘されています。

(市販キットを販売している美容クリニックも同様の目で見られています)

東京都港区からは、自費検査を扱う施設の中で、医師の診察なく陰性証明を出したりする不適切な例について、医師法や厚生労働省の通知などに抵触する可能性があるとして、改善を指導し、利用者への注意喚起を行っています。

今回は、「安価な民間PCR検査」、「美容クリニック等のPCR検査」、「保険診療機関でのPCR検査」の3つのPCR検査は何が異なり、どのようなことに注意が必要なのかについて解説いたします。

そもそも一体何を確認すればいいの?

「安価な民間PCR検査」、「美容クリニック等のPCR検査」、「保険診療機関でのPCR検査」の3種類で検討すべきポイントは、以下の5つだと考えられます。それぞれ解説の中で重複することもありますが、一つずつ解説させていただきます。

  • 価格
  • 検査の精度
  • 結果が出るまでのスピード
  • 検査そのもの・医療機関としての信頼性(PCR検査の環境・医療/検査機関としての信頼性)
  • 陽性になったときの対応

価格はなぜこんなに違うの?

2020年12月現在、よくある価格は以下のようになっています

  • 「安価な民間PCR検査」:1980円〜2900円
  • 「美容クリニック等のPCR検査」:4900円〜15000円
  • 「保険診療機関でのPCR検査」:2.5万円〜4万円

これだけ大きな差があると、普通の方は、なんでこんなに違うのか?と感じることでしょう。

一番大きな理由は、検体・検査をどのように行っているかでしょう。

保険診療の医療機関が行っているPCR検査は、保険診療で行うために、非常に多くの規制を遵守し、複数の機関(例:ISO、アメリカ病理学会など)の承認をとった検査会社に委託して実施しているケースがほとんどです。この場合、検査会社は、臨床検査技師を多数雇用し、バイオハザード基準を遵守し、結果についても精度を上げるために、ダブルチェック・トリプルチェックを行っています。結果的に、保険診療の医療機関が検査会社に支払っているPCR検査の費用は、非常に高額であり、そこにスタッフの人件費や個人防護具等の費用が加わるために、2.5〜4万円という金額になります。

一方、美容クリニックが実施しているPCR検査の多くは、院内にPCR検査の機械を置き、大量に検査を行うことを行っています。「自費診療」で行うため、保健所等のチェックは入らず、精度をあげるために、ダブルチェックを行うかどうかは、コストを踏まえて、美容クリニックの判断に一任されることとなります。PCR検査の機械はそれほど高いものではなく、検査の試薬も数量がでれば安くなりますので、数千円という金額で受託を行っているところが多数見られます。また、現在、PCR検査を行っている美容クリニックの経営母体は医師ですらなく、WIFIを提供する企業であったり、カラーコンタクトを販売する企業、インターネット関連の広告企業など、医療とは全く関係ない企業が実質的に経営を行っているケースが多数見られます。そのような企業に雇われた医師が、名義貸し等で院長をおこなっているケースも多数あります。

安価な民間PCR検査については、美容クリニックと同様に、自分たちでPCR検査機器を購入し、検査を行っています。保険診療では有りませんし、ましてや、「診断ではない」と謳っているため、検査の手法や精度は外部からの監査が入ることは有りません。試薬を売っている検査会社そのものがやっているケースや、大手通信機器・建設業などの企業が参入して実施しているものが目立って報道されています。数量を大量に処理することを前提とし、コストを下げて対応しているので、非常に安い価格でPCR検査を受けることはできます。

また、診断書や、迅速検査のオプションを選択すると、結果的には、大幅に価格が上がることも特徴の一つです。

  • 「安価な民間PCR検査」:1980円〜2900円 → 9980円〜16000円
  • 「美容クリニック等のPCR検査」:4900円〜15000円 → 18000円〜29000円
  • 「保険診療機関でのPCR検査」:2.5万円〜4万円 → 35000円〜45000円

PCR検査の精度は違うの?

「安価な民間PCR検査」「美容クリニックのPCR検査」で用いられている検査の手法は、いわゆるPCR検査(polymerase chain reaction)であり、保険診療の医療機関が委託している検査会社での手法と、論理的には同じものです。使っている試薬は公開しているところと、していないところがあります。

しかし「民間PCR検査」の価格は、医療機関が検査会社に支払っている検査料よりも圧倒的に低く設定されています。ボリュームの増加で単価が下がっていること以外に考えうることはないのでしょうか。特に、医療に置いては、検査品質が重要でありますが、それを犠牲にしていることはないのでしょうか。

保険診療でPCR検査を行う場合、保険診療の医療機関と、そこから検査を受託する検査機関は、検査の精度を確保するために一定の基準を満たすことが求められています。そのためには、検査機器のみならず、検体を採取したり扱う医療スタッフ、検査を行う検査技師などのスタッフ、検査機器や検体の環境を整える必要があり、それにはコストがかかります。また、検査結果が出た場合、結果の精度をあげるために、ダブルチェックを行っています。

「美容クリニックの自費PCR検査」においては、保険診療で求められる基準を要求されることは有りませんし、監査を受けることも有りません。

実際に、某2900円の民間PCR検査で陽性のケースで、クリニックフォア で再検査を行った3件中、3件とも陰性となりました。(2020年12月17日現在)

PCR検査の結果が出るまでのスピードは違いますか?

スピードは、当初、保険診療で行う検査会社は3日程度かかり、「安価な民間PCR検査会社」や「美容クリニックの自費PCR検査」とは大きな差が有りましたが、現在はどれも6時間程度で結果が出るようになっており、大きな差はありません

逆に、最短3時間で結果が出ると言っているような検査は、ダブルチェックを行っていないと考えられ、精度を犠牲にしていると考えられるでしょう

安全に受けられるの?

保険診療の医療機関では、症状のある方は受診の方法や、場所など動線が分けられているため、無症状の方が安全に検査を受けられるように配慮がされています。

美容クリニックの自費PCRは、郵送検査をメインで行っているところが多く、新型コロナウイルスに対する安全性という観点では問題がないところが多いでしょう。

「民間の対面型自費PCR検査」は、現在のところ陽性率は1%程度であるということです。これは、企業を対象に郵送PCR検査だけを行っている某携帯会社の検査は陽性率0.01%であることを考慮すると、圧倒的に高い陽性率となっています。これは、症状がある方や感染したかもと思い当たる方などが、医療機関を受診することなく、これらの「民間の対面型自費PCR検査」を受診しているという可能性が考えられます。

一方、「民間の対面型自費PCR検査」は、あくまで単なる検査を行う場所であり、感染の疑いがない人・症状のない人を前提に検査を行っています。一般的な感染対策は行われているでしょうが、コロナに感染した人が訪問するということを前提とした対応は取られていないと考えられます。1%の検査受診者がコロナにかかっているとすると、その感染症状のある方が同じ環境で検査を行っている可能性もあるため、感染リスクについても注意が必要と考えられます。

医療機関・検査に対する信頼性は問題有りませんか?

検査そのものに対する信頼性は、既に解説したとおりです。

美容クリニックのPCR検査は、院内で保険診療の基準を満たさず行っているところが多く、品質を保証する術がありません。また、3時間で報告等を謳っていることを考えると、陽性者のダブルチェックは行っていない可能性があります。

民間PCR検査機関のPCR検査は、「診断はできない」と謳っている検査であり、少なくとも我々が経験した「偽陽性(3/3)」を踏まえると、陽性者のダブルチェックは行っていないように考えられます。

検査機関・医療機関に対する信頼性も考慮する必要があります。

民間PCR検査は、そもそも「医師の判断は無い」「診断ができない」という前提の検査を行っております。さらに、医療とは全く関係ない企業(WIFIの会社・カラーコンタクトの販売会社・出版社・建設会社など)が運営しているケースもあります。安価でPCR検査を提供してもらうのは良いことですが、最低限、「品質の担保」「感染拡大を防ぐために陽性が出た時の対応を適正化する」の2つは行ってもらいたいところです。

美容クリニックについては、美容医療の医師が、自身の専門ではない新型コロナウイルス感染症に対し、どこまで責任を持って陽性者の対応をしてくれるのか、ということに尽きます。前述のように、経営主体が医師ではない、一般の企業であることも多く、そのような場合、院長は単なる雇われ院長で、陽性患者さんに責任を持って対応してくれないことがあるえることもご注意下さい。

(写真と本文は関係ありません)

陽性となった時の対応はどうなりますか?

保険診療を行う医療機関では、陽性となった場合の重症度の判定、保健所への報告、患者さんへのその後の過ごし方の説明、必要であれば治療・お薬の処方は責務であり、当然行っています。

ご不安な点などは、医師に確認の上、保健所からの連絡を、感染拡大を起こさないような環境でお待ちいただくことになります。

しかし、「民間PCR検査」で陽性となった場合には、そもそも診断を行うことができないために、新型コロナウイルスに感染しているとは診断されず、別途医療機関への受診が必要となります。また、この場合、保健所の指導に基づき、既に民間PCR検査で陽性結果が出ていたとしても、保険診療・公費でのPCR検査を行うことはできません。再び、自費でのPCR検査を行うことが必要となります。

和文・英文診断書・健康証明書はもらえますか?

民間PCR検査では、陰性証明書や、診断書は、医療機関ではないため発行が難しいケースが多いようです。追加費用で診断書の発行が可能と当初言っていた民間PCR検査も、保健所の指導を受け、現在は診断書の発行は不可能になっています。

また昨今は海外でも安価なPCR検査の質、証明書の偽造などが問題となっており、海外渡航のためのPCR検査や診断書では、指定医療機関や、保険医療機関からの発行であることが求められることも多くなっています。

特に、美容クリニックの自費PCR検査は、検査基準を満たしていないために指定から漏れていることも多々ありますのでご注意下さい。

「民間PCR検査」でPCR検査を検討されている方へ

これから「民間PCR検査」でPCR検査を受けようと思っている方は、国立国際医療センターの忽那先生がおっしゃっている、以下の点にご留意ください。

以下、忽那先生の記事を引用させていただきます。

  • 発熱や咳などの症状や新型コロナ患者との接触歴がある場合は、行政検査の対象になる可能性がありますので、身近な医療機関に相談してください
  • 医師の判断の伴わない検査センターでのPCR検査で陽性だった場合、必ずその旨を事前に伝えた上で医療機関に相談してください
  • PCR検査が陰性であった場合も「新型コロナではない」とは限りません。陰性証明書が感染対策をしなくてよい免罪符になるわけではない点にご注意ください。

PCR検査が陰性であった場合も「新型コロナではない」とは限りません。陰性証明書が感染対策をしなくてよい免罪符になるわけではない点にご注意ください。

安価な自費でのPCR検査が広がることは基本的には良いことだとは思いますが、検査センターの特徴・特性を理解した上で利用するようにしましょう。

クリニックフォアのPCR検査について

クリニックフォアでは保険診療医療機関として、検査精度を担保したPCR検査を行っております。症状がある方は、公費にて診療・検査をさせていただきます。

また、陽性となった場合も、責任を持って対応させていただきますのでご安心下さい。

受診、検査をご検討の方は、こちらをご覧ください。

参考資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00199.html

https://news.livedoor.com/article/detail/19744304/

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/notice/efforts_003.html

https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_210326_02.pdf

https://www.city.minato.tokyo.jp/imuyakuji/covid19/kensakaizen.html

公開日:2021年1月28日、更新日:2021年3月26日

作成:クリニックフォア医師

※本記事は、上記公開日時点での状況・情報・エビデンスをもとに記載しています。新型コロナウイルス感染症については、日々状況が変化し、また新しくわかることも多々ありますので、最新の情報は、直近の記事や情報をご参照くださいますようお願いいたします。